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【コンタクトセンターのナレッジ管理】理想は「エンドユーザーを含めた視点」を持つこと。

更新日:
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【要約】重要なのは、現場で「必要な情報に素早くアクセスできる」環境の構築

ナレッジ管理の方法:
ナレッジはCRMに蓄積するだけでは十分でなく、現場で「必要な情報に素早くアクセスできる」環境が不可欠とされている。WOWOWコミュニケーションズではこの課題を受け、ミドルウェアを自社開発。オペレーターがポータルから直感的に情報へ辿りつけるよう設計し、属人性を排除した運用体制の基盤とした。

生産性を向上させる仕組み:
生産性向上には「情報の最新性」と「現場での使いやすさ」が鍵となる。ミドルウェア導入により新人の立ち上がりが早まり、離職率も改善。KPI未達の原因を現場の声とデータから特定し、学習テストやチーム会によるフィードバックの場を設けるなど、継続的なアップデートと学習の仕組みを整えている。

理想は「エンドユーザーを含めた視点」を持つこと:
理想は、コンタクトセンター内のナレッジとエンドユーザー向けのFAQやWeb情報が統合され、同じ情報を誰もが参照できる状態を実現すること。ナレッジを社内で閉じず、ユーザー視点からも価値ある形で整理し直すことで、問い合わせ数の削減と対応品質の向上を両立する長期的戦略が描かれている。

ナレッジ管理の実例をご紹介。

現場でよくある「ナレッジが探しにくい」「情報が多すぎて絞れない」といった課題。対応品質や生産性を高めるには、単に情報を溜めるだけでは不十分だと実感されている方も多いのではないでしょうか。

こういった課題解決の一例として、WOWOWコミュニケーションズでは独自のミドルウェアを開発・導入することで改善を図ってきました。

本記事では、コンタクトセンターにおいてナレッジ管理の「仕組み化」を検討されている方に向けて、ミドルウェアの設計思想から運用の工夫、習熟度の高め方やチーム内での共有手法までを詳しくご紹介します。

スピーカー

三橋 祐也

2004年にWOWOWコミュニケーションズ入社。コンタクトセンターのオペレーション管理、品質向上施策、スタッフ教育など、現場運営全般に従事。多様な業種・業務における運用設計とマネジメント経験を活かし、センター全体のパフォーマンス最適化に従事している。

インタビュアー

原澤 耀

合同会社HARAFUJI Co-Founder COO | 大学在学中の19歳より株式会社ギャプライズにてBtoCデジタルマーケティング、BtoBマーケティング、法人営業に従事。その後、チーターデジタル株式会社にて法人営業を経て、 現在は合同会社HARAFUJIの共同創業者として独立。BtoBマーケティングを中心とした戦略および戦術支援事業に従事している。詳しくはこちら

コンタクトセンターにおけるナレッジ管理の重要性

━━━コンタクトセンターにおけるナレッジ管理の重要性について、どのようにお考えでしょうか?

まず、ナレッジ管理はコンタクトセンターにとって必要不可欠です。

中でも、正確な案内を提供するための正確性、そしてお客様をお待たせせず効率的に対応するための効率性やスピード、生産性といった観点で非常に重要だと考えています。

このナレッジ管理がしっかりできていないと、正確な案内ができないだけでなく、効率的な対応やスピーディーな対応も難しくなります。

結果として、生産性向上が阻害されることになります。

また設定しているKPI、例えば応答率など、お客様の状況やセンターの目標次第で異なる指標があるかと思いますが、これらの目標達成にもナレッジ管理は非常に密接に関わる重要な要素であると考えています。

━━━実際に、WOWOWコミュニケーションズではコンタクトセンターにおけるナレッジ管理を、どのように改善、仕組み化をされていますか?

お客さま毎に異なりますが、例えば、ナレッジの蓄積のためにCRMを活用しています。

運用としては、ナレッジをCRMにどんどん溜めていく形で進めています。ただし、CRMはあくまで「辞書」のような役割にとどまっている印象があります。

辞書的なツールの問題点として、知りたい内容をすぐに調べにくい点があげられます。

例えば特定の単語を検索して情報を引き出すことはできるものの、必要なタイミングで必要な情報に素早くアクセスするのが難しい、という課題がありました。

そこで我々は、より使いやすくするために独自のミドルウェアを開発しました。

これは、ポータルサイトのようなイメージで、業務に必要な情報を集約し、そのポータルから辞書ツールへ簡単に飛べるような仕組みを作りました。

ナレッジ管理においては、正確な情報を正確にお客様へお伝えすることが最も重要です。

しかし、それと同時に、必要な情報に迅速にアクセスできる環境を整えることも大切だと考えています。この点については、従来の辞書ツールの課題を補完する形で、アクセス性を高める仕組みを構築しました。

━━━なぜ、ミドルウェアを作りましたか?何か、課題があったのでしょうか?

実際に業務を立ち上げて稼働し始めた際、特にコンタクトセンターの管理者やオペレーターの方々には、まだナレッジが個人レベルで十分に蓄積されていない状態でした。

これは立ち上げ段階ではよくあることですが、根本的な課題として、お客様からの問い合わせに対し、「これが知りたい」と言われたときに、必要な情報に素早くアクセスできないという状況がありました。

━━━それは、オペレーターとお電話先のお客さまと会話している最中に発生する問題ですか?

はい、まさにその通りです。

この課題は、先ほど触れた「スピード」という要素に直結します。必要な情報を探し出すこと自体は可能ですが、その情報が大量に網羅されているがゆえに、特定の問いに対するピンポイントの回答を得るために、膨大な内容を読み込まなければならないという問題がありました。

例えば、辞書のように全体が非常に網羅的で、注意点や関連事項が詳細に書かれているとしても、お客様が求めているのは「その中のここだけ」ということが多いです。

それを迅速に取り出せないと、会話中にお客様をお待たせすることになってしまうんです。

そのため、特定の問いに対する必要な情報だけを迅速に取り出せる仕組みが必要だと考え、ミドルウェアの開発に至りました。

━━━ミドルウェアはポータルサイトのイメージで、例えばテキストが一覧になっているウィキペディアのような形なのでしょうか?

そうですね。

━━━それは自社開発されたものですか?

はい、自社開発です。

━━━ミドルウェアを、具体的にどう活用されていますか?

操作のイメージとしては、ボタンを押すことで、WOWOWコミュニケーションズのお客さまがご用意されているナレッジツールやその他のツールに直接飛べる仕組みになっています。

CRMからもアクセスは可能ですが、特に個人の習熟度がまだ低い場合、そもそも必要な情報にたどり着けないという課題がありました。

これが業務の最初の大きな壁となっていました。

その結果、情報を探している間にお客様をお待たせしてしまう状況が発生します。また、特に生産性向上の観点ではKPIへの達成の障壁となります。

━━━「個人的な習熟度が低い」点についてですが、課題が明らかになるのは、現場からの声を聞いて気づくものなのでしょうか?それとも、数値を見て「この数字がおかしい」と気づき、そこからヒアリングしていくような流れなのでしょうか?

どちらもあります。

現場からの声が上がることもありますし、定量的なデータとしても表れます。例えば、KPIの目標数値に対する乖離幅などを見ることで、課題を把握することができます。

━━━次に、個人の習熟度という言葉が出ましたが、習熟度を高めたり、横展開で全体に浸透させる際に、浸透度やその深さをどのように確認して進められていますか?

おっしゃる通り、ツールを導入しても、うまく活用されなかったり、使い勝手が悪かったりすると、ナレッジの理解度や浸透に課題が残ります。

この点を確認し、改善するためにいくつかの取り組みをしています。

例えば、具体的にはテストのようなものを行うことがあります。ナレッジやツールの使い方を確認するために、簡単な実践テストを実施するケースです。

また、最初の段階で、必要な情報にアクセスするためのツールの使い方をしっかりレクチャーし、落とし込むことに力を入れています。

これにより、ツールやナレッジの利用が定着しているかどうかを確認しながら、必要に応じて改善を加えています。重要なのは、利用状況を定期的にモニタリングし、現場の声を反映することです。

━━━現場での課題を地道に解決する取り組みが重要、ということでしょうか?

そうですね。特定の知識やスキルが不足している場合には研修を行って浸透度を上げる取り組みをしています。

また、日々の運用の中で重要なのは、現場でよくある問い合わせや、その時々のトレンドを共有することです。

例えば、朝礼で「最近こういう問い合わせが増えているので、関連する情報を確認しておいてください」といった形で内容を改めて説明し、現場の理解を深めるようにしています。

こういった地道な取り組みが、ナレッジの浸透や現場のスムーズな運用に繋がっています。日々の運用の中で、こうした小さな努力の積み重ねが非常に大事だと感じています。

━━━総じて、ミドルウェアを導入したことで、現場にはどのような変化がありましたか?

ミドルウェアを作ることで、必要な情報を迅速に確認・アクセスできる環境を整えました。これにより、業務効率や生産性が向上し、結果的にお客様対応の質も高めることができました。

そもそも、ミドルウェアを導入した際の背景として、生産性が目標に達していないという課題がありました。特に、KPIとして細かく設定された応答数に新人オペレーターが達していない状況がありました。

ミドルウェアの導入により、新人オペレーターの生産性がガイドラインに沿うようになりました。

特に情報の整理が進み、必要なナレッジに迅速にアクセスできるようになったことで、対応がスムーズになり、生産性向上が実現しました。

定性的な成果としては、業務が難しいという声が減り、新人オペレーターでも対応がしやすくなりました。管理者の負担も軽減され、「ツールを見れば分かる」状態が整ったことで、指導やサポートの効率が上がりました。また、業務のしやすさが向上したことで、オペレーターの離職率が下がり、定着率が上がりました。

ミドルウェアができたことによって、業務が難しいと感じるオペレーターでも、何とか業務を継続できるようになりました。

━━━なるほど。ミドルウェアがなかった時は、離職しやすい状況があったけど、それが改善され、脱落率が減少したことで、結果的にパフォーマンスが上がり、人件費や採用コストの削減にもつながった。

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最新な情報を保ち、生産性を向上させる仕組みとは?

━━━生産性向上のためにナレッジを活用する際、アクセスのしにくさ以外に課題はあったりしますか?例えばナレッジがそもそも存在しない、または時間が経って陳腐化してしまう、といった他の壁もあるのでしょうか。

おっしゃる通り、情報の最新性は非常に重要な課題です。

ナレッジが古いままだと、正確性に欠け、結果としてお客様対応の品質にも影響します。

さきぼどのミドルウェアを開発したコンタクトセンターの場合、CRMの大元のデータ管理はWOWOWコミュニケーションズのお客さまが行っています。そのため、お客さまの部門が常に最新情報を更新していく形になっています。

一方、他のコンタクトセンターでは、WOWOWコミュニケーションズがナレッジの大元を管理する役割を担うことがあります。情報を日々更新し、常に最新の状態に保つ作業が必要になります。

こうした情報の更新作業も非常に地道な取り組みですが、これを怠るとナレッジ自体の有用性が損なわれるため、非常に重要な部分だと考えています。 

つまり、アクセスのしやすさだけでなく、ナレッジそのものを最新で正確な状態に保つことが、生産性向上のためのもう一つの重要な壁となっています。

━━━ナレッジの更新については、お客さまからの情報提供がきっかけになることが多いのか、それとも現場の声を受けて「これはアップデートが必要だ」と判断するケースの方が多いのでしょうか?

両方ありますね。

お客さまの環境や対応内容に変更があり、それに伴ってナレッジを更新しなければならないケースもあります。また、エンドユーザーからの問い合わせ内容をもとに、「この内容は変えた方がいいよね」と現場で判断されることもあります。

━━━コミュニケーションの頻度が高そうに感じますが、それらのコミュニケーションはどこに集約されますか?例えば、三橋さんが全体を統括しているのか、それとも、プロジェクトごとにオーナーがいるようなイメージでしょうか。

現在では、ナレッジ管理を私個人で直接担当することはなくなっています。基本的にはコンタクトセンターや業務ごとにSVや責任者がその役割を担い、ナレッジの管理や更新を行っています。

ナレッジはどう集める?成功事例とNG事例の管理手法

━━━ここまでお話を伺った中で、ナレッジのアクセス性や更新頻度について触れましたが、少し基本的なところに戻ります。そもそもナレッジはどのように集めているのでしょうか?例えば、優秀なオペレーターの対応を参考にするのか、音声を聞いて「これを取り入れたい」と感じるのか、それとも数字を見て必要性を判断するのか。

いずれのパターンも当てはまります。

上手いプレイヤーの応対を参考にすることもありますし、録音された音声を聞いて「これをナレッジ化したい」と判断することもあります。

また、KPIやその他の数字を見て、それを形にする必要があると判断するケースもあります。それぞれの方法を状況に応じて組み合わせながら取り組んでいます。

━━━成功事例をナレッジ化することはもちろんですが、逆に「この対応をするとお客さまにとってネガティブ」といったNG事例もナレッジとして残されているのでしょうか?

はい、あります。例えば、簡単な例で言えば、特定の言葉遣いや表現がNGとされています。

また、コンタクトセンターでは個人情報を扱う場面が多いため、個人情報に関する適切な管理について、「こういう行動はやめましょう」「こういうことをしましょう」という両方の指針を用意しています。これにより、リスク回避と対応品質の向上を図っています。

ナレッジ共有はチーム制と計画的な学習時間の確保が鍵

━━━ナレッジ共有の仕組みについてですが、ナレッジ共有会のようなものを実施されていますか?例えば「優秀なオペレーターを講師として立てる」など。コンタクトセンターではノンストップで稼働するため、時間を確保するのが難しいとも感じています。そこで、ナレッジを深く浸透させるための工夫や事例があれば教えていただきたいです。

パフォーマンスを向上させる取り組みとして、コンタクトセンターではチーム制を採用しています。

一つのチーム毎に、リーダーが10~15名ほどのコミュニケーターを担当する形になっています。リーダーにはコミュニケーターの育成責任を持たせており、月に一度、チーム会を実施しています。その中で、成功事例やKPIに基づく優れた取り組みを共有する場を設けています。

KPIは多様であるため、それぞれの指標に基づく成功事例の共有を行い、個々のメンバーが学びを得られるような環境を作っています。

このような共有会を通じて、ナレッジの深い浸透を図っています。

━━━ナレッジ共有のための時間確保についてですが、コンタクトセンターでは運営開始前から計画して確保しておくべきでしょうか?それとも突発的に必要になるものなのでしょうか?

基本的には計画の段階で確保しておく必要があります。

例えば、「この1時間は稼働を止めてチーム会を行う」という形で計画的に組み込んでいます。ただし、入電状況などの影響でリスケが必要になることもあります。

━━━コンタクトセンターに限らず、計画的に確保した時間をしっかり守ることが大事ですね。とはいえ、現場のプレイヤーたちは「対応を優先したい」という焦りを感じることもあると思います。そうしたストレスはどのようにマネジメントされていますか?

おっしゃる通り、プレイヤーが焦りを感じることはあります。

そのため、管理者やSVがその重要性を現場にしっかり説明し、ストレスを軽減する工夫をしています。例えば、時間を守ることが業務全体の効率化につながることを具体的に説明することで、納得感を持たせています。

関連記事:スーパーバイザー(SV)の研修後、現場で活かす術と起きやすい問題とは?

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ナレッジ管理の理想形 – エンドユーザーと共有できる環境を目指して

━━━総じて、ナレッジ管理で最も重要視しているのは何ですか?

少し話がそれてしまうかもしれませんが、個人的な理想としては、オペレーターの先にいらっしゃるお客さま目線、つまりエンドユーザーを含めた視点で考えると、コンタクトセンター内のナレッジをエンドユーザーであるお客様も同じように見られる状態を作ることが理想だと思っています。

━━━媒介物が存在しても、ほぼないに等しい状態で、情報の最短距離と質の深さを両立させる…ということでしょうか?

その通りです。

現在、コンタクトセンター内のナレッジと、お客さま向けに外部公開しているFAQやホームページ上のナレッジをすべて統合して整理するという取り組みが進んでいます。これは長期的な課題ですが、AIを活用しながら実現を目指しています。

最終的には、内部のナレッジと外部に公開しているナレッジが同じ内容で一致していれば、問い合わせの件数も減少し、より効率的な環境が構築できます。ナレッジをしっかり活用するという意味では、そうした状態を目指すべきだと考えています。

とはいえ、お客さまも多様で、ホームページでどんなにわかりやすく書いても、意訳するような役割がいないと理解が難しい方もいらっしゃいます。

その点でコンタクトセンターの存在意義があると感じています。

WOWOWコミュニケーションズ | コンタクトセンターのサービス資料3点セット

この記事を書いた人

猪越 みなみ

2023年WOWOWコミュニケーションズ入社。 過去カスタマーサポート、BPO業務のソリューションセールスに従事。 現在は、営業の経験を活かし、BtoBマーケティング領域の営業企画を担当。

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