コールセンターのKPI設計で失敗するポイント
目次
【要約】KPIの問題よりも、運用自体が成り立たないことが失敗の根本原因
最適なKPI設計とは、お客様との会話から生まれる:KPI設計の鍵は、顧客との徹底的な会話を通じて期待値を擦り合わせること。KPIは運用中に必要に応じて柔軟に見直し、合理的な指標と非合理的な要素を両立させるのが重要。例えば、予算内で応答率や顧客満足度を最大化するために、フォーキャスト(入電量予測)や人員配置を調整しつつ、運用を最適化するプロセスが必要となる。
KPIの種類は大きく4つに分類される:「生産性」「応対品質」「顧客満足度」「マネジメント」の4つが主要なKPIの分類。それぞれに応じた細かい指標が設定される。例えば、生産性では稼働率やCPH(コストパーアワー)、応対品質では応答率やAHT(平均応答処理時間)が重要。また、各KPI(重要業績評価指標)はゴールやKGI(重要目標達成指標)に応じて変化し、注力すべきポイントが異なる。
コールセンターのKPI設計で失敗するポイントは準備不足:設計前にデータや根拠を十分に準備せずに進めると、運用が破綻する可能性が高い。例えば、過去実績や類似事例がないまま、曖昧な情報を基にKPIを設定すると、予算内での運用やKPI達成が困難になる。こうした失敗を防ぐために、計画の段階で顧客と合意を取り、運用開始後も柔軟に修正できる体制を整えることが重要となる。
KPI設計の注意点を解説
コールセンター運営において、KPI(重要業績評価指標)の設計を誤ると、運用効率が低下し、顧客満足度を損ねる原因になります。
特に、事前の合意不足や非現実的な数値設定は、失敗につながりやすいポイントです。
この記事では、失敗を防ぐためのKPI設計の注意点を解説します。
最適なKPI設計は、お客さまとの会話から生まれる。
━━━コールセンターの運用において、KPI管理がなぜ重要なのか教えてください。
企業である以上は必ず予算がありますよね。そのため、予算とパフォーマンスという観点で、費用対効果を見ながら運営を行う必要があります。
その際に、コールセンターのパフォーマンスを管理するための指標がKPIになります。予算の中で、パフォーマンスを達成させることが必要だからこそ、KPIは運用の中で非常に重要な役割を果たしています。
━━━ビジネスモデルごと、課題ごとにKPIの設定方法のアプローチは異なりますか?それとも、ある程度マニュアルやテンプレートみたいなものがあるのでしょうか?
テンプレートはありますが、コールセンターの目的によって変わります。例えば、下記のような目的の違いです。
KGIの例
- 満足度が第一
- 売上が第一
- コスト削減が第一
大きく分けて、上記の3つがあります。そういう意味で、KPIはコールセンターの目的やKGIによって左右されます。
━━━コールセンターのKGI達成に向けたKPIのロジックは、合理的に設計されていますか?それとも非合理な要因(組織的な問題や外的要因など)も加味して設計されていますか?
KPIの考え方でいうと非常に合理的で、「〇〇」÷「〇〇」と数字の世界です。
KPIに対する考え方は様々ですが、KGIを達成させるために運営しながらも最適化していくことも重要なので、KPIは必要に応じて見直していくべきとも考えています。
ただコールセンターを運営していると、数値で表せないが、運営において重要な要素もあります。
例えば、インサイト。
インサイトとは、お客さまの気持ちや「なぜ?」という行動の理由、すなわち本音にあたるもの。
WOWOWコミュニケーションズの場合「コールセンターの運営と一緒に、インサイトについてもサポートできますよ。」など、コールセンターの運用のKPI管理にプラスαで、数字にはしにくいが、事業において大事な非合理的な要素にも取り組んでいます。
━━━非合理的な要素は、KPIの設計当初から想定し、KPI設計に組み込んでいますか?それとも、非合理的な要素が発生することは把握しておきつつ、KPI設計は合理的に進めるのでしょうか?
もちろん、KPI設計の段階では合理も非合理も関係なく、様々なことを想定し、バッファを持たせています。
ただ、これらに絶対的な正解はありません。
なのでWOWOWコミュニケーションズとしては、コールセンター運営開始前に、お客さまと徹底的に会話することで最適解を見つけています。
ただ単にコールセンターを運営するのではなく、KGIを的確に捉え、お客さまと会話し、最適なKPI設計を行う。これが大事なのではないでしょうか。
ただ、私としては単純なお客さまセンターにしたくはなかった。単純なサポート業務だけでは、コストセンターになってしまうからです。
私はサポートだけでなく、そこからお客さまの声を集め、サービスに活かし、結果的にお客さまへ還元していきたかった。WOWOWコミュニケーションズさんにお願いしたことで助かっているのは、先ほど申し上げたように”ただのサポート”で終わらない点です。弊社は格安SIM部門にて顧客満足度1位をいただけました。
引用元:【イオンリテール株式会社】コンタクトセンター導入事例 | 格安SIM部門で顧客満足度No.1を獲得。裏側にある“顧客の声”を集める仕組みとは?
━━━なるほど、興味深いです。営業という人間が介在することで、WOWOWコミュニケーションズのプロフェッショナルな視点とお客さま側のイメージが、完全一致は難しくても、できるだけ近づくように設定していくんですね。
KPIの種類は大きく4つ。
━━━KPIの種類は、どのようなものがありますか?
まず、大きく分けて4つです。
- 生産性
- 応対品質
- 顧客満足度
- マネジメント
例えば、生産性を構成するプロセスKPIとして稼働率やCPHなどがあります。
━━━ありがとうございます。大きくまとめていただいた4つですが、例えば生産性の中で3つ、応対品質で10個のKPIを設定するなど、お客さまが想定するKGIやゴールに応じて、KPIが可変するという認識で間違いないでしょうか?
そうですが、正直なところ、どのような目的、ゴール、KGIだとしても、細かなKPIまで全て見ています。
ただ、目的やKGIに応じて細かいKPIの重要度が異なります。
応対品質を目的としたならば応答率、顧客満足度ならばNPS、マネジメントならば欠勤率など、重要度が変わります。
最終的には全てが繋がるものの、注力するポイントや濃度が変化していくため、結局は全てのKPIを見ています。
━━━KPIはコールセンターに限らず「全て把握せよ」「一つに絞るべき」など、様々な論調があります。コールセンターでは、管理すべきKPIの数をどのように考えていますか?
コールセンター全体の運用としては少ない方がいいのではないでしょうか。
ただ、運用していくとKPIは増えていきます。
例えば応答率80%というKPIがあったら、応答率がKPIになります。では「どうしたら80%を達成できるのか?」となると、コール1件あたりの処理時間などの新たなKPIが生まれます。
運用全体として持つKPIは少ないですが、運用マネジメントとしては、管理すべきKPIはある程度の数が必要になってきます。
センター管理者の考え方で変わってもきますが、やはり、KPIを持ちすぎるのはよくない。
いつの間にか、プロセスKPIの達成が運用の目的になり、本来目指すべき数字に紐づかないなども
ありがちな問題です。
そのため、コールセンターの運営においては、センター長は達成させるべき全体の数字を把握する、SVやリーダーはより小さなKPIを追っていくといった世界観になります。
━━━SVの方々に求められるスキルやマインドセットについてお伺いしたいと思います。SVとして「これがあるといい」というものがあれば教えていただけますか?
そうですね、いろいろと挙げられると思いますが、ひとつ特に重要なのは「全体を見渡す視野の広さ」かもしれません。
たとえば、朝一で現場を見渡したときに、いつもと様子が違うオペレーターがいることに気づけるとか、最近特定のクレームや問い合わせ内容が増えているといった傾向をキャッチアップできる視野の広さは、非常に重要だと思います。
KPI設計前のデータを正確に整えるべし。
━━━仮にKGIを「顧客満足度」とおいた場合、KPIはどういう設計、ひいては濃度にされますか?
大前提、KPIを語る上でやはり予算がどうしても必要です。
例えば、応答率を100%にすることが満足度の基準だとしたら、予算をたくさん投入することで達成するといった選択肢もあります。
ただ、そういうわけにはいかない。
予算の中で、かつ応対品質を上げるとなると、応対品質をKPIとして置くのは容易ではありません。
このような前提において、おそらく、まず基本的には応答率の話になります。応答率が低すぎると、やはり満足度には繋がらない。
そして、電話が出る速度、平均応答処理時間(AHT)といった指標が重要になってきます。
コールセンターに電話して、中々繋がらなかったら不快ですよね。なので、「すぐ出る」「すぐつながる」というのが顧客満足度をKGIに置いた場合には非常に重要な要素になります。
スタンダードな考え方としては「お客さまは用があって電話をしているのだから、つながることが最優先」と考えます。
そして、そのつながりを実現するためにはフォーキャスト、つまり「どれくらいの件数が月に入ってくるのか」という予測精度が重要になります。
その予測精度を基に、「何%の応答率を取るために何人が必要なのか」という計画が立てられるわけです。
そもそも、コールセンターのコスト構造はほぼ人件費です。
なので、例えば生産性を「5分以内に対応を終える」と設定しないと、この人件費でこの件数はさばけません、という計算になります。過去の実績があれば、それをしっかり確認する必要がありますし、もし実績がない場合は想定を基に計画を立てます。
━━━KPI設計前の定量情報が肝になってきますね。
例えば、実際には20分かかる対応を、「5分でできます」と約束してしまうと、大幅な赤字になります。
こういった食い違いを防ぐためにも、お客さまとの「アグリー(合意)」を取っておくことが重要です。実際に運用してみて、「予想以上に時間がかかりました」となる場合は、双方で計画を見直すことが可能ですが、最初に「5分でいける」と言い切ってしまうと信頼を失う可能性があります。
これが冒頭で話した、お客さまと会話し、意識のすり合わせにつながる部分です。
そのため、まずはフォーキャストを行い、それに基づいた応答率を達成するための運用計画を作成します。そして、その計画に基づいて人員配置をした際に、予算内に収まるかを確認します。これが成り立たなければ、コールセンター自体が成立しません。
その上で、仕事が成立した後に応対品質の話が出てきます。
応対品質は「つながり」というハード面と、「気持ちのこもった対応」というソフト面の2つで構成されると思います。ソフト面のパフォーマンスは数値化が難しい部分です。
なので、まずは運用が成り立つという土台をKPIとして設計し、その上で応対品質を向上させるための工夫を行います。パフォーマンス部分については、WOWCOM Collegeや研修で対応していけば問題ないと思います。
※関連記事:コールセンターの“高い”応対品質とは?
━━━なるほど。話を整理すると、KPI設計には合理と非合理があり、合理的な部分は予算や過去の実績を基にお客様と調整して進めます。一方、非合理な部分では、認識が一致しないとトラブルになるため、事前にお客さまとWOWOWコミュニケーションズの営業がしっかり共有することが、KPI達成には重要…ということでしょうか。
仰る通りです。
合理も非合理もなくて、極論としては、インバウンドの場合はどれくらいの入電量があるのか、何件取らなければならないのか、1件あたりどれくらいの時間がかかるのか。
これらがわかれば、それに基づいて体制を組むことができます。その体制の組み方でコストが安くなるか高くなるかが変わり、まずそれが土台になります。
コールセンターのKPI設計で失敗するポイント
━━━KPI設計で失敗しやすい点は何でしょうか?
そもそもKPIの問題というよりも、運用自体が成り立たないことが失敗の根本原因です。
よくある失敗例としては、「この金額で発注」という予算が先行し、裏付けのない数字を元に体制を組んでしまうことです。
過去の実績や類似事例を参考にしてパフォーマンスや体制を組むのが理想ですが、それが合意されずに「このくらいならできるだろう」と推測で決めてしまうのが失敗のポイントです。
━━━予算はあるに越したことはないものの、そういうわけにはいかない状況が多い中で、予算の範囲内でお客さまが描く理想のコールセンター像をつなぎ合わせて具体化していく。
そうですね、コールセンター全体としてそういう部分が求められます。
失敗例としては、ある業務を処理するセンターで「こういう処理が必要です」とは言われるものの、1件当たりの処理時間やコストが具体的に開示されず、「月にこれくらいの件数があります」という曖昧な情報だけで話が進んだとします。
そこで、コールセンター運営側が「1件あたり5分くらい」と想定し、運用を開始。
ただ、実際に運用を始めると、1件当たりの処理時間が想定の何倍もかかってしまう…といったことです。
━━━何倍もかかると、たしかに、KGI達成は現予算ではできませんね。
そうなんです。
この場合、もし私がクライアントだったら「いやいや、できるって仰ったわけですから、達成してください。」と思うわけです。
でも、コールセンター側からすると「いや、頂いた情報が全然違うじゃないですか」という齟齬が発生してしまう。
だから、前述した通り、事前にきちんとした合意を取っておくことが重要なんです。
「これで一旦進めます。ただし、実際にやってみて時間が大きくかかった場合は相談させてください」という合意があれば、運用中に「実際はかなり時間がかかっています」と報告し、「この部分は自動化できます」「ここまでは弊社が対応しますが、ここから先はお客様側でお願いします」といったコミュニケーションが取れるようになります。
この事前の合意が抜け落ちてしまうと、運用途中で問題が発覚しても、修正や立て直しが非常に難しくなります。
━━━KGIロジックが非常に合理的だからこそ、どこかのロジックが前提で計算したものと全く違う結果になると、すべてが連動しているので一気に崩壊するということですね。
そうなんです。
例えば、過去に他の企業様で「6分で処理できた」という実績があれば、それを裏付けにできます。その際のマニュアルやトークスクリプトなどの資料を共有いただきながら、必要に応じて再構築することで、運用の改善に向けてパフォーマンスを高める方向に舵を切れます。
しかし、過去実績が全くないと、比較する基準が存在しないんですよね。
そのため、何ができているのか、何ができていないのか、そもそも立てたKPIが正しいのかどうかも分からなくなります。
過去実績も参考データもない場合、KPIを立てるには、「類似事例ではこうだった」という参考値を提示した上で、「実際に運用してみないと分からない部分があります」と事前に伝える必要があります。そして、「まずはミニマムスタートでやりましょう」という提案が重要になります。
こうしたコミュニケーションが最終的に信頼関係に繋がります。
そのため、運用自体がそもそも成り立つロジックになっているのか、事前にしっかり組むことがコールセンターで失敗しないポイントではないでしょうか。