サービスサイエンスとは?「事前期待」を理解し、顧客満足度を向上させよう
どの業界においても、サービスの質は顧客満足度に直結する重要なファクターです。
小売業やサービス業はもちろん、製造業においても優れたサービスが購買の決定要因になることも珍しくありません。サービス水準が高ければ顧客満足度が向上し、ファン化推進にもつながります。
しかし、接客研修を何度も実施しているのに一向に顧客満足度が向上しない、スタッフによってサービス品質にバラつきがあり結果的に顧客満足度が低い、といった企業も多いのではないでしょうか。
そこで検討したいのが「サービスサイエンス」の活用です。科学的なアプローチでサービス水準の向上を進めることで、顧客満足度に寄与するサービスを実現できるでしょう。
本記事では、サービスサイエンスの概要からサービスサイエンスを通じて顧客満足度を向上させる方法について解説します。
※関連記事:なぜ、LTVを定義することは重要なのか?
目次
サービスサイエンス研修動画公開中!
WOWOWコミュニケーションズの公式YouTubeチャンネルにて、「コール・コンタクトセンターの研修 | 顧客満足度を高めるサービスサイエンスとは?(序章)」を公開中!
サービスサイエンスとは?
サービスサイエンスとは、サービスを科学的に研究・分析し、そのレベルを高度化させようという理論です。上述したように、サービスの質は顧客満足度に直結するものです。
しかしそれほど重要なサービスが、従来、現場の勘や経験でその内容が決められる傾向にあります。というのも、サービスにはモノにはない次の特性があるためです。
- 無形性……目に見えない・形がない
- 同時消費性……提供と同時に消費され在庫できない
- 非均一性……提供者によって技術レベルが異なる
上記のような点から、適切なサービスを提供し続けることが難しいという特徴があります。
サービスサイエンスは、こうした特徴を持つサービスに対して、科学的にアプローチし、理論を体系化することで、業界を問わずサービスレベルの維持・向上につなげます。
つまり、サービスサイエンスを取り入れることで、顧客満足度向上につながるサービスレベルを実現し得るというわけです。質の高いサービスをモデル化するサービスサイエンスは、これからの企業成長を考えるうえで欠かせないものと言えるでしょう。
サービスサイエンスが求められる背景
サービスとひと口にいってもその内容は多様であり、定量化しづらい面があります。そのため、これまでサービスのモデル化は難しいと考えられてきました。
サービス提供においては経験や勘に頼る側面が大きく、精神性や経営者のリーダーシップによる判断など、不確実性の高い要素が多く見られました。しかし、こうしたアプローチ方法は定量化しづらく、結果にバラつきがでてしまいます。
昨今では、商品やサービスのコモディティ化により他社との差別化が難しくなり、それに付随するサービスの良しあしが購買理由につながる傾向があります。
多様化した消費者に対し、顧客満足度の高いサービスを提供するためには、データを活用したアプローチが求められます。そうした背景から、注目を集めているのが「サービスサイエンス」の取り組みです。
サービスサイエンスの構築に不可欠な「事前期待」とは?
サービスサイエンスの理論を導入してサービスレベルを高度化していくには、「事前期待」への理解が欠かせません。というのも、自分たちが正しいと思うサービスではなく、顧客から求められるサービスを提供する必要があるからです。
顧客主義をスローガンとする企業は多いものの、実際に現場でそれを形にできている企業は多くありません。自社が正しいと思うサービスの提供に終始し、顧客の声に耳を傾けていないサービスでは“独りよがりの顧客主義”になってしまう恐れがあります。
顧客満足度を向上させる良いサービスとは、顧客のニーズに基づいたサービスです。顧客が自社にどのようなサービスを求めているのか、顧客の「事前期待」を知ることが、サービスサイエンスの中核テーマであり、顧客満足度向上のためのサービスを提供するカギとなります。
事前期待とは?
事前期待とは、顧客が自社のサービスに何を求めているかを言語化したものです。何を求めているかによって、適切なサービスは異なります。
例えばコンタクトセンターにおいても、「聞きたいこと自体が曖昧なので、会話をリードしてほしい」という顧客と、「言いたいことが明確なので主張したい」という顧客では、提供すべきサービスの品質が異なります。
サービスの品質は「成果品質」と「プロセス品質」に大別されます。さらに、成果品質は「正確性」、「迅速性」、「柔軟性」、プロセス品質は「共感性」、「安心感」、「好印象」に分けて検討することができます。
先ほどの例で言えば、「聞きたいこと自体が曖昧」という顧客には、礼儀正しい言葉遣いによる“好印象”やオウム返しで復唱する“共感性”などが重視されるでしょう。
一方、「言いたいことが明確」な顧客には、ルールを押し付けない“柔軟性”、ニーズの理解が早い“迅速性”などが求められます。このように、事前期待により求められるサービス品質は異なるのです。
求められるサービスが異なれば、接客スタッフの伸ばすべき能力も異なります。事前期待を把握せずに接客研修を実施しても、顧客満足度向上につながる接客が実現できません。
事前期待の例
「事前期待は個々に異なるので、やはりサービスを科学的にモデル化するのは難しいのでは?」という声があります。しかし、事前期待もいくつかのタイプに分けることができます。
例えば、ホテルで予約を取るシーンを考えてみましょう。「観光に行きたい」、「おしゃれなホテルだといいな」、「ゆっくり仕事をしたい」等、顧客によって事前期待はさまざまです。こうした顧客の事前期待は大別すると、以下の4つがあります。
- 1.共通的な事前期待
“宿泊して観光を楽しみたい”、“おいしい食事がしたい”など、顧客が考える共通した期待値 - 2.個別的な事前期待
“〇〇料理(特定)が食べたい”、“豪華な部屋に泊まりたい”など、顧客が個別に持つ期待値 - 3.状況で変化する事前期待
“誕生日や記念日、特別なイベント”、“外出先から予約の電話をしている”など、状況や環境要因で変化する期待値 - 4.潜在的な事前期待
顧客が内面的に感じている期待値。特別感や感動に当たります。例えば山登りの途中に雨が降り出したが、ホテルの方が傘を持ってきてくれた、といったエピソードもあります。
自社のサービスではどのような事前期待が考えられるか、分類に沿って考えてみましょう。
サービスサイエンスの活用で顧客満足度を向上させる方法
サービスサイエンスを活用して顧客満足度を向上させるには、大きく分けて以下の3ステップがあります。
① 事前期待に沿った分類軸でセグメント化する
年齢や性別等で顧客を分類するのではなく、顧客が抱いている事前期待を軸としてセグメントします。詳細な事前期待を把握する前に、まずは自社のサービスに合った分類軸を設定しましょう。
例えば、損害保険会社を例に取ると、「できるだけ安心な保険/そこそこ安心な保険」、「高価でもよい/なるべく安価」、「保険内容は任せたい/保険内容を理解したい」といった軸を設定できます。
さらに、3つの分類軸で顧客を細かく分解し、「高価でもよくて/そこそこ安心」という顧客は存在しないので削除する、「できるだけ安心/なるべく安く/内容は任せたい」といった顧客はトラブルになりやすいから注意するなど、各ゾーンを見ることで顧客像が明確になります。
分類軸に沿って顧客像を明確にしたら、事前期待の詳細を把握していきます。
上述した「①共通的な事前期待」、「②個別的な事前期待」、「③状況で変化する事前期待」、「④潜在的な事前期待」という視点からどのような事前期待があるかを考えていきましょう。ポイントは顧客像を明確にする手順をしっかり実施することです。
なお、サービスサイエンスの導入で顧客満足度が高まるにつれ、事前期待が過剰になるケースがあります。しかし、サービスレベルの向上にも限度があるでしょう。その場合は、「妥当」な事前期待にまで調整する必要があります。
② 事前期待に合ったサービスモデルを開発・見える化する
顧客像を明確にし、事前期待を把握したら、それに基づいてサービスを開発します。採用をサポートする業種を例に挙げると、初めて自社の採用担当となった方の事前期待は「分かりやすく基本的なことから教えてほしい」というケースが考えられます。
しかし、すでに経験豊富な方であれば「知識を自慢したい」といった事前期待があるかもしれません。
「分かりやすく基本的なことから教えてほしい」という事前期待に対しては“丁寧な説明”、“安心させる”といった対応が考えられます。一方、経験豊富で「知識を自慢したい」という事前期待なら“徹底的に聞き役にまわる”、“下手に出る、ほめる”といった対応があります。
ポイントは点ではなく線でサービスモデルを作ることです。飲食店で言えば来店から店を出るまでの各顧客接点で、事前期待とそれに対応するサービスを開発する必要があります。
部分最適ではなく全体最適がサービス水準を高めるコツです。また、開発したサービスモデルは見える化し、スタッフと共有することが重要です。スタッフ全員が理解して初めて企業としてのサービスレベル向上につながります。
③ そのサービスモデルを実行できる人材を育成する
良質なサービスモデルを開発しても、それを実行できる人材がいなければ、絵に描いた餅にすぎません。開発したサービスモデルに合わせて、接客研修やOJTを通じて人材を育てていきましょう。
また、サービスモデルのとおりに実行しているつもりでも、無意識のうちにズレてしまうこともあります。モニタリングをすることでズレを調整しましょう。
「顧客満足度を高める施策を実行しているのに、なかなか成果が出ない」という企業は、これらのステップのいずれかが省かれているケースが考えられます。ステップをすべてクリアすることで、顧客満足度が大きく向上することが期待できるでしょう。
参考: 「サービスサイエンス」実践のヒント|セールスフォース
「事前期待」の把握がサービスサイエンスの鍵
サービスサイエンスは、これまで現場の経験や勘に頼りがちだったサービスを科学的なアプローチで体系化する理論です。サービスサイエンスを導入することで、サービスの品質を高い水準で維持でき、顧客満足度向上が期待できます。
サービスサイエンスを具現化する際に注目したいのが「事前期待」です。顧客が自社にどのようなサービスを求めているのか、事前期待を把握することで、適切なサービスの設計・モデル化ができます。
また、スタッフの人材教育においても、顧客の事前期待に基づいたサービスモデルを実行できる人材を育成する、と教育方針が明確になるはずです。サービスサイエンスを取り入れ、サービスレベルを向上させて顧客満足度を高めていきましょう。
サービスサイエンスを活用した事例
【株式会社JTBコミュニケーションデザイン】コンタクトセンター導入事例|「ただのコンタクトセンター…ではない。」コールの質がロイヤルティを生む、その理由とは?
「コールセンターとは、呼びたくなかった。」
大手金融会社の上位顧客向けの会員サービスとして提供しているコンシェルジュサービス。その裏側を担っているのが、株式会社JTBコミュニケーションデザイン コーポレートソリューション部プロモーション第一事業局です。
本サービスの根幹である、WOWOWコミュニケーションズが提供しているコンタクトセンターのマネジメントを行っているのが、今回インタビューにご対応いただいた宮下様、そして佐伯様です。
19年も続く、コンシェルジュサービス。
裏側では会員様を想像しながら勉強に励む現場と、ロイヤルティに対する真摯な向き合い方がありました。
その一部始終を、ご紹介します。
※記事はこちら
※コールセンターの研修サービスはこちら